商店会員インタビュー vol.6「こども冨貴堂」

三和・緑道商店会員インタビューの6回目は、子供から大人まで愛される絵本屋さん「こども冨貴堂」。

商店会の中でも非常に歴史が深く、緑道とともにたくさんの年月を過ごしている店舗です。

店長の土井美千代さんにお話を伺いました。


ーまずはこども冨貴堂の歴史について教えていただけますか?


泉光江さんという方が、「子供のための本屋さんを開きたい!」という思いで1981年に勤めていた冨貴堂書店を辞めて独立されたんです。その時に「冨貴堂」という名前をのれん分けしてもらうような形で、こども冨貴堂は誕生しました。現在「旭川ひだまりの会」が入っている建物の1階部分で営業をスタートさせたんです。

私も当時はお客さんとして通っていて、そのうちお店のお手伝いもするようになりまして。まだ旭山動物園で飼育員をされていたあべ弘士さんも応援する一人だったんですよ。

当時子供のための書店というものが全国的に出来ていた頃で、旭川にもそんな場所ができたことが嬉しかったのを覚えていますね。

ところが、1987年に泉さんがご主人の転勤で本州に引っ越すことになってしまって。一緒にお店に通っていた仲間と「こんな素敵な場所がなくなるの?どうしよう…」と話しているうちに、「共同経営でお店をやってみない?」という話が出たんです。本屋さんをやるなんて全く未知の世界だったけど、周りにいる人たちもみんな魅力的な人たちだったし、何より面白そうだったから「じゃあ一緒にやりましょう!」ということに。

そのタイミングで今の場所が空いていたこともあって、お店を引っ越して現在の形になりました。

人にしても場所にしても、すべてはご縁でしたね。



ーお客様はどんな方がいらっしゃいますか?歴史のあるお店なので、昔を知っているお客様も多いかと思うんですが…。


そうですね、昔から通って下さっているお客様も多いですよ。

あべ弘士さんが全国的に活躍される絵本作家さんになられたことで、旭川だけでなく観光客の方でもあべさんのファンが旭山動物園を経由して来て下さることもあります。

もちろんたまたま通りかかって来店される方もいるし、旭川に引っ越してきた方が「旭川にこどもの本屋さんがあるって聞いて」と来てくれたり。

きっと来て下さるみなさんは元々絵本が好きで、アンテナを張っていらっしゃるんでしょうね。接していると求めているものが近いというか、同じ感覚を持っている方ばかりな気もします。だからつながることができるんでしょうね。


ーこちらに置かれている絵本はどのように選定されているんですか?


まず一般的な本屋さんとの大きな違いは、やっぱり自分たちの基準である程度吟味して入荷したいってことですね。

キャラクターとかゲームの本は他の本屋さんでいっぱい出会えると思うから、ここに来たからこその絵本に出会ってほしいと考えています。

例えば誕生して60年になる「ぐりとぐら」のような、いわゆるロングセラーと呼ばれるジャンルの本って、昔に書かれた本だけれど今の経済社会の中でも淘汰されることなく子供たちに愛されて読み継がれていますよね。そういった本はずっと置いていきたいと思っています。

新しい本も日々出ているけれど、何でもかんでも取り寄せるのではなくて、せっかくなら私たちが選んで「これはおすすめしたい!」と感じたものを置かないと、ここでやっている意味がないかなって。


ー私自身も子供が生まれてから自分の子供に絵本を選んだり与えたりするようになったんですけど、自分が子供の頃に読んでいた絵本と再会できると嬉しいものですよね。


そうなんです!きっとその嬉しさって、みなさんそれぞれの引き出しにしまわれていた小さい時の楽しかった思い出とか温かい気持ちなんでしょうね。子供の頃に読んでいた本と再会したお客様を目の当たりにすると、こちらも嬉しくなります。こども冨貴堂で働いているおかげで、こうした目に見えないかけがえのない瞬間に立ち会えるから、すごく幸せですよ。




ーお店の奥にあるギャラリースペースについてなんですが、こちらはどういった経緯で誕生したものなんですか?


1987年にここに移ってくることになった時に、当時出資者の一人が「作品や絵本の原画を見られるようなスペースを作りたい」と提案してくれてできたものなので、実は最初からあるんですよ。

売り場のスペースは減ってしまうけど、このスペースがあるおかげで展示を見に来てくれるお客さんがいたり、お店を知ってもらえるきっかけにもなるでしょう?素敵な原画や作品を見られると私たちスタッフも嬉しいし、いい空間だなと気に入っています。


ー今年でいうと「チリとチリリ」シリーズのどいかやさんや、MAYA MAXXさんの展示もありましたね。展示の内容などはどのようにして決まるものなんでしょうか?


いろいろなケースがありますけどね。こちらから作家さんに声をかけさせてもらう場合や、知り合いのつてで連絡を取ったり、逆に先方から直接もしくは出版社を通じて連絡をいただくこともあります。

大前提としてここはこども冨貴堂の企画のギャラリーなので、あらゆることに手を広げ過ぎず、こども冨貴堂ならではの展示をしたくて。絵本の原画展はそのひとつなんです。ここで育った一人であるあべ弘士さんや堀川真さんの展示も多くやってきましたしね。

何でもかんでもやらないもう一つの理由としては、お金のハードルです。運転資金にも限りがあるので、できるだけお金をかけないようにということですね。例えば本州の作家さんの作品を置くとなると、北海道ですから送料がかかってしまいますよね。それにプラスして原画の借用料として相応の金額を作家さんにお支払いするというのはなかなか厳しいんです。そこを上手く交渉して、それでも「やりましょう」と言って下さると話がまとまるわけです。だから途切れなく展示が出来るというのは、ありがたいことですよね。



ー土井さんにとって緑道ってどんな場所ですか?


こども冨貴堂を作った泉さんも緑道が大好きだったんですよ。だから緑道でお店を出すことを決めたと聞いています。私はお客さんとして通っていた頃「このお店があるから」と思ってここを目指して来ていたけれど、本当に素敵な場所ですよね。だから移転の時も奇跡的にここが空いていて本当に良かった!

やっぱり緑がある、自然があるっていうのがいいですよね。冬が終わってツリバナの葉っぱが真っ先に芽吹くと「あぁ、春が来たな」と感じたり、「今年も木の実がよく落ちてくる季節になったな」と思ったり…無機質で人工的なものからでなく、自然の風景から四季を感じられるところがいいと思っています。特に近年は商店会や地域の人たちが綺麗に手入れをしてくれるようになったことで、みんなの想いが集まってより身近に感じられるようになったんじゃないでしょうか。

あと、人が多すぎないっていうのもいいなって、実はこっそり思ってます(笑)。通行量が多いとくたびれてしまうし、そういう意味でもホッとできる大好きな場所です。


ー最後に、今後の展望についてお聞かせ下さい。


2020年11月にスタートさせた「こどもの本一万円選書」を一生懸命発信しています。

砂川にあるいわた書店さんが一万円選書の取り組みをすでにスタートされていて、全国から申し込みが殺到して抽選販売になるほどの実績を持たれていたんです。TVなどでも取り上げられたりして、個人的にも「いい取り組みだな」と思っていたところに、いわた書店さんの方から「こども冨貴堂は子供のための本を選ぶ『目』を持っているんだから、子供向けの一万円選書をやってみたら?」と声をかけて下さったんです。

若いスタッフや産休から戻って来てくれたスタッフも増えて、働いているみんなに少しでも報いたいという思いがずっと頭にあったということもあり、新しく開拓する分野はここなんじゃないかと思って、開店40周年を機にスタートさせました。

ありがたいことに背中を押してくれたいわた書店さんが、一万円選書に当選した方々に本を送る時にこどもの本一万円選書の告知チラシを同封して下さって、そのおかげもあって今現在に至るまでに200を超える申し込みがあったんです。地元の方が応援の意味で申し込んで下さったり、九州など遠いところからも購入して下さる方もいらっしゃって。決して安い買い物ではない上に送料もかかるのに、こんなにも需要があったんだと驚いています。

こども冨貴堂が今後長く続いていくためにも、こういった活動は続けていきたいと思っていますね。今いるスタッフもみんな「こども冨貴堂が好き」という思いで働いてくれているので、本当にありがたくて大切にしたいんです。


ースタッフのみなさん、本当にいい方ばかりですよね。私自身も子供たちがお店に遊びに行かせていただいたりと、個人的にみなさまには大変お世話になってます…。


ここに来た当時も子供が多くて、よく子供だけで遊びに来ていましたよ。その様子を見ているだけで面白くて(笑)。

よく「最近の子供は本を読まなくなった」という話を聞くけれど、ここに来てくれる子供たちはびっくりするほど読書家ばかり。きっと親御さんなりのおかげで本にたくさん触れ合える環境にある子供たちが、新たな本に会いに来てくれているんだと思います。今はスマホやタブレットといった便利で楽しいものもいっぱいあるけれど、やっぱり本にも出会ってほしいですね。



[インタビュアーからひとこと]

子供たちの心の成長に大きな影響を与える「絵本」という存在。

その絵本とともに子供たちに寄り添い続けているこども冨貴堂のみなさまの言葉や眼差しは、いつも温かな優しさで溢れています。

土井さんからお話を伺う中で、子供たちはもちろんのこと、かつて子供だった人たち、そしてこども冨貴堂のスタッフのみなさまへ向けられた大きな愛を感じることができました。

今回のインタビューを通して、こども冨貴堂のようなお店がこの緑道にあり続けてくれていることのありがたさを、改めて感じています。


※今回からインタビュアーがMaitoParta店長の知本有里になりました。商店会の一員として三和・緑道商店会のお店やスポットの魅力を発信していきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします!


インタビュアー 知本有里

札幌市出身。23歳の時就職をきっかけに旭川へ。

現在緑道にて、北欧雑貨店「MaitoParta」を営む。店舗の2階で暮らす、名実ともに緑道の住人。


三和・緑道商店会

北海道旭川市7条緑道を中心とする三和・緑道商店会は、ここで生きる「人」のくらしを第一に考え、「まちと人」「人と人」「自然と人」をつなぐことを目的として活動しています。

0コメント

  • 1000 / 1000